アート旅/旅アート


by kinoppi-cxb
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いつのときも人を包みこむ。糸と布の“人間の生に寄り添う力”

展覧会準備が着々と進められていた昨年12月に、企画者の学芸員の竹口さんに取材をさせていただいた。伝統工芸に造詣の深い竹口さんが、「おっ」と思ったという10組の作家たちを紹介するという。「糸の仕事、布の仕事、作品がもつそもそもの魅力だけでなく、作品から滲み出るその人たちの生き方・“いのちの世界”を伝えたい」と、出品交渉はもちろん、彼らのロングインタビューも行なった竹口さんの言葉の一つひとつ、その奥底に熱いものを感じた。「(作家の一人)上原美智子さんの布はとってもとっても薄いんだけども、掌に乗った瞬間、ふわっと温かい。触れることによって関係が開かれる。糸と布って、人間の生に寄り添う力があると思う。その部分を伝えられたら」。こんな話を聞いたら、そりゃおのずと期待は高まるでしょ。

そして開幕後、知人や他メディアからよい評判が伝わってきた。あまり期待しすぎてもよくないな~なんて思いながら会場に向かったのだが、はいゴメンナサイ、その心配はまったくの杞憂でございました。

【以下ネタバレ】
最初に展示されていたのは、竹口さんが説明されていた上原美智子さんの布。「コレハホントニヌノナノカ?」。驚きのあまり、脳内の日本語変換が微妙になる。なんとも繊細な、薄い、薄い、薄い手織りの布。「あげずば織」。「あげずば」とは琉球の言葉で「蜻蛉」を意味するそうだ。その言葉どおり、まさに蜻蛉の羽のように、重量をまったく感じさせない。天井から吊り下げられた作品は、私が歩くだけで「ふぅわ」っと揺らぐ。歩いて生じる空気の振動で揺らぐ、それほどの軽やかさなのだ。俗っぽくて申し訳ないけど、「ハリーポッターの“透明マント”を凌ぐ軽やかさかも」、なんて思ってしまった。とにもかくにも、我々の周りにある「空気の存在」までも伝わってくる。

堀内紀子さんの「編による造形」も、同じように「空気の存在」を感じさせてくれる。こちらは視覚的に。宇宙的な深みをもつ福本潮子さんの藍染、何層にも絵具を塗り重ねた抽象絵画のような志村ふくみさんの重厚なる紬織、もはや手技の域を超えた鈴田滋人さんの木版摺更紗……一人ひとり(組)の作品の感想をあげればきりがない。

展示の仕方によってはその魅力が半減することもあり、逆に作品の真髄がさらに観客へと伝わることもある。今回、美術作家の坂崎隆一さんが会場構成を手掛けたことにより、まさに後者の効果を得ていた。それぞれの作品にすうっと向き合え、じっくりと彼らの手技が堪能でき、魅力が存分に伝わってくる。作品点数はさほど多くないものの、「もっと見てみたいなぁ」と、これから先も出品作家たちへと引き続き興味を持たせる腹八分目の点数は、私にとってはちょうどいい。

各作家たちの略歴と、解説の代わりとなる引用文もぜひじっくりと読んでほしい。簡潔な短い文章にもかかわらず、各々の作家たちがどう作品と向き合っているか(きたか)、また作家たちの人となりまでも感じることができるのだ。彼らのように作品を作ることはできないけれど、その生き様を知ることは、これからの人生の参考になる。そう思った。
展覧会図録には、竹口さんによる各作家のロングインタビューも掲載されている。テープ起しすると各作家およそ20000字あったものを、約5000字に編集しなおしたものだという。こちらを読むと、さらに作家たちの生き様が垣間見られるだろう。読むのが非常に楽しみだ。


「オギャ~」と産まれ、産着を身に着けてから、死ぬまでの長い間、我々人間は布を纏っていきていく。会場に飾られたもののように立派なものはもちろん手に入れることはできないが、折り返しを迎えた我が人生、時々は、気持ちよい・心地よいものを自分の身体に纏ってあげようと思った次第。展覧会「糸の先へ」。糸から、布から、その先へ広がるもの……私がその先にみたものは、広い意味での「人生」だった。ん……? 「糸と布って、人間の生に寄り添う力があると思う」と言っていた竹口さんの思惑に、まんまとはまってしまったわけだな。

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展覧会図録とチラシ。チラシは広げると大判になる。表面の糸を表した線画は、デザイナーの手描きによる渾身の仕事! 裏面には竹口学芸員による1700文字ものテキストが。











糸の先へ
いのちを紡ぐ手、布に染まる世界

2012/2/4~3/11
会場:福岡県立美術館
詳細はコチラ
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by kinoppi-cxb | 2012-02-24 15:23 | 展覧会レビュー