アート旅/旅アート


by kinoppi-cxb
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初めて彼女を取材させてもらったのは、確か1997年の夏だったと思う。写真家・野村佐紀子。毎年夏にアートスペース貘で展覧会をおこない、新作を発表している。新作を発表するというのはアーティストにとって非常に肉体的にも精神的にも労力を使う、大変なことだと知っている。しかし、彼女はそれを毎年続けるうえに、毎回違う印象を与えてくれる。彼女の作品はもちろんだが、彼女の持つ無限の表現力に魅了され続けている。

3月3日に始まった今回の展覧会の会場は、アートスペース貘ではない。BAR & WHITE SPACE ONEという、初めて訪れる場所だ。バーと聞いていたので、てっきり店内の壁の空いたスペースに作品を飾っているのかと思いきや、入口側すぐの手前のスペースがギャラリーのような立派なホワイトスペースで作品はそこに展示されていた。

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事前に作品は24×20インチの巨大アナログインスタント写真(いわゆる「ポラロイド写真」)と知っていたが、インチの単位がいまいちピンとこなかった。会場に着き、展示された写真に「で、でかっ!」と驚いた。なんでも撮影したカメラは世界に3台しかないもので、約200kgの重さというオバケのようなカメラだとか。撮影するのも、現像するのも非常に時間と手間がかかるという。当たり前だ。会場には、このカメラで撮った写真作品6枚が展示されているが、撮影は半日がかりでおこなわれ、撮った写真はきっかりこの6枚だけだったという。

貴重なカメラを使っての撮影。しかも撮影は大仕事であり、さらにインスタントフィルムゆえ焼き増しできずオリジナル写真はたった1枚しか存在しないことになる。「カメラの存在は重要です。もちろん撮る時の気分は、いつもとは異なりました」と野村佐紀子。「でも何より被写体との関係性が大きく違いましたね」。被写体は、子ども。子どもは集中力がすぐに途切れてしまう生き物だが、半日続いた撮影にも関わらず、「彼も私も互いに、ずっと真剣に向き合った」と言う。

ポラロイド写真は、時が経つにつれ色が褪せていく。このオリジナル1枚のみの巨大インスタント写真もいずれ、消えゆく運命にある。訪問時、まだ現像液は乾ききってなくて、じわじわと被写体が浮かび上がっているのか、それとも逆に消えていっているのか、なんとも言い難い感じだった。写真は記録性が強く時を止めるものでもあるが、この作品に至っては進みゆく時を目にするような感じを覚えた。見えない時間の流れを見るようで、なんとも切なく、そして少し怖くもあり……心が揺さぶられ、目がしらが熱くなる。
一方で、被写体の子どもの強く真剣な眼差しに“未来”を感じ、切なくキュンとなった胸に、次に温かいものが流れてくる。
胸がキュンとなったり温かくなったり、泣きそうになったり微笑みそうになったり。感情のカオス。しかし、複雑でぐちゃぐちゃしたものでなく、心地よい混沌さ。

野村佐紀子に驚かされ、胸を動かされるのはもうこれで何度目だろう。しかも、今回の驚きと感動はかなりのビッグウェーブだ。そしてまた、私はますます彼女に魅了される。

e0101090_051579.jpg小さい、というか普通サイズのポラロイド写真作品もあわせて展示されている。奥のバーもとてもいい空間。ここでシャンパン飲みながら、作品をゆっくり鑑賞したい……。

※同時開催でほか市内4カ所にて野村佐紀子の写真集をテーマにした写真展も開催されている。各会場、それぞれのオーナーが気に入った写真集を選び、そのオリジナル写真を展示。野村佐紀子の写真集を巡る展覧会というわけだ。


「instant film」野村佐紀子写真展
2012/3/3~4/7
会場:BAR & WHITE SPACE ONE
詳細はコチラ
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by kinoppi-cxb | 2012-03-23 00:56 | 展覧会レビュー